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history of KYUSAI MAJIN

 

∴5才児の自殺


20歳に為ったばかりの女が言った
『私これから死ぬの』


俺は言った

『女性の平均寿命て80歳くらいでしょ。
貴女はまだ1/4しか生きて無いんですよ?

今まで生きた20年間でいえば、今は5歳児ですよ

此れから楽しい事も辛いことも沢山あるでしょうけど
5歳で死ぬのは早すぎますよ』


少し間を置いて俺は言った

『僕の目の前で交通事故が起きて人が死んでいくのを見た事が有るんですよ

人工呼吸を受けてる、その人の為に僕に出来る事なんて何も無かった

どんなに助けたくても自分には救えない命も有る事は判ってます

僕が貴女の為に何か出来る事は有りませんか?』


女は言った
『私の事を強く抱いて』

俺は強く強く彼女を抱き締めた

 


∴横断


道路を横断してるとトラックがクラクションを鳴らし急停車

道路が自分の物だと思ってる馬鹿垂れに中指をたててやった

すると運転手が降りてきて言った
『馬鹿野郎ー!死にたいのか!!』

俺は言った
『どうせ皆、死ぬんだよ』

運転手は言った
『死にたいんなら他所で死ねよ 迷惑なんだよ!!』

俺は言った
『だったらアンタが他所を走りな!』

 

●戦争の根絶


スーツを持ってない俺は会議室にジーパン姿で出席した

ご立派にスーツを着て議論してる偉い大人に自己紹介した


『ロック・ミュージシャンのyayoiと申します

皆さんの中には僕の格好を見て不愉快に感じてる人も居られると思います

僕を会議室から追い出すのか

僕にスーツを買い与えるか

或いは頑張って働いてスーツ買おうて僕に思わせるか


皆さんの様な立派な大人が
僕の様な、ならず者とどう付き合うかが戦争根絶に通ずると思うんですよ

テロリストや犯罪組織みたいな社会に対する新たな脅威が出現したときに
断罪するのか仲間外れにして孤立させるのか
受け入れるのか
結局、その選択が戦争か平和かを選択してるんだと僕は思います

 

●命

教授だった僕の父親は仕事で行った海外で
治療法の無い伝染病に犯されて日本で隔離されて死んだ

テレビでも放送されて
周囲のほとんどの人が優しくしてくれたけど
中には危険地帯に行く方が悪いとか
自業自得だって言う人が居た

当時、子供だった僕の耳に入らないように
周りの大人が凄く気を使っていた事は判ってた。

僕は命て凄く大事なものだって考えてる

本当に大事なものなんだって
命の価値を判ってない人に知ってほしい。

 

●死言


友人とショッピングを楽しんでいる時に
少し女性物ぽい帽子を気に入った

けど流石にレディースだと頭の大きさ的にも
入らないと思ったので接客してくれてた女性店員さんに
『これってユニセックスですか?』
て聞くと明らかに声を裏返しながら
顔を赤らめながら質問に対応してくれた

私は心の中で焦った
ポーカーフェイスは崩さなかったけど
言葉を間違えたのか?と自問自答してた

なにかイヤラシイ言葉を言ってしまったのだろうか?

そんな事ばかり考えてて
何も耳に入らなかった。

帰り際に友人に『ユニセックスで有ってる?』て聞くと
「有ってるけど今は死語かな」て言われた


●衝動

もしも時代や体制のせいで
生きていくために自分が本当はしたくない様な
悪事をしなくては成らない場合に
世を捨て人を捨て己すら捨てて世の中との関わりを全て捨てて
世捨て人としでしか潔白を守れないのなら
正しき者は生きてる意味を見出だせなくなる

そんな世の中でも自分の出来る精一杯の範囲で
正しく生きようと試みた。

そしたら乱を起こす不吉な男として扱われ
私が揉め事を起こしてる張本人扱いされた

それでも私は間違ってる事は見過ごせない

私情でなく天命で過ちを打つ
それが天より力を授かった私の役目だ

風たちぬ世で俺は立つ

悪党どもよ覚悟しとくがいい
俺はすぐ近くに居るぞ

 

 


●ガンスリンガーボーイ

6発の弾丸全てを内臓に
おみまいした

俺は喜びと幸福感に満たされながら
痙攣しながら悶え喜んでる姿を見ていた

月がしずむと同時に俺は此処から居なくなる

こいつは化け物退治だ


奴らは男を騙そうと
顔を変え、しゃべり方まで変えて近づいてくる

喰われる前に、ぶっぱなしただけだ

白い液体を体から垂れ流し横たわる
奴を、尻目に俺は悲劇のホテルを後にした

もしも、また俺に会おうとするなら
その時は穴という穴に銀の弾をお見舞いしてやるぜ

あばよ!セニョリータ


俺は次の獲物を探しに町に繰り出した

種馬に股がり颯爽と荒野を駆ける俺はガンマン

 

 

●ラバーシューズ

背の小さい俺は前の方の奴に毎日絡まれてる
「俺の方がおっきいよね?」とか
「俺は、バスケ部入る!」とか毎日小言を聞かされた

だから俺は決めたんだ
音楽で売れてラバーシューズ買ってサヨナラするってな

 


●光の距離

魚が泳ぐ真っ黒な空が
僕達の大事なモノを全てを溶かした

僕達は必死に思いでの残骸を片付けた
皆で励まし合い光を目指した

余りに遠い光を目指すうちに
僕達は誰が一番光に近いか比べ始めた

負けないようにと頑張って光を目指せば目指すほど
光が遠くに感じられた

歩むことに疲れきった僕は精も根も尽きて
とうとう暗闇に倒れこんだ

皆の足音が僕を置いて遠ざかる

このまま一人ぼっちで死んでいくんだなって思った

ただ、ぼんやりと躍起に目指した光を眺めた

前を歩く皆の背中が光に飲み込まれる

皆の姿が見えなく為って
僕と暗闇と光だけに為った

振り替えれば後ろには僕の影が見えていた。

 

 

●ボクサー

「なに見てんだ」
身長は普通なれど、やたら肉つきの良い黒人男性に呼び止められた

彼の瞳を覗きこむと
忘却の丘で怒りの焚き火で一人暖を取る孤独な少年の目をしていた

私は静かに彼に尋ねた
「孤独な少年よ何を荒ぶる?」

少年は烈火の如く怒り狂い私に思い付くだけの罵声を浴びせ掛けた後に
疲れ気った様に項垂れポツリ、ポツリと冷え込んだ理由を語りだした

彼はボクサーで兄弟子が
試合で相手選手から頭突きなど酷い反則行為をされ試合に負けたと言うのだ

彼は仇を取るために練習に励み
卑怯な反則行為に対抗する為に
自らもルールを破り規定の体重をオーバーした状態で試合に望んだ

どうにか試合に勝つことは出来たものの
世間からは卑怯ものだと罵られ
皆が彼を蔑んだと言うのだ

相手は反則行為を繰り返しても注意や減点ですみ
自分だけが悪者の様に世間から非難される

そんなやるせなさが彼を蝕んで腐らせたのだ


私は彼の悲しみを理解し
自分の事の様に苦しい気持ちを抱きながら語り掛けた

相手に圧倒的に有利な場所で戦い
少なくとも試合に勝ったのだから自分を誇って良い

貴方は間違いなく兄弟子の仇を取った

それでも気が晴れないのは
貴方がより高みを目指してるからだ

もっと完璧な完全無欠の勝利を欲して居るのだろう


疲れきり、うつ向いてた彼の顔が徐々に前を向く


私は立派なボクサーを前に話を続けた

より完璧な勝利を掴むためにやる事が有るだろう

こんな所で悲しんでる時間は勿体ない


彼は目を見開き忘却の丘を後にした
そんな強き者の背中を見送り私も丘を後にした

焚き火は燃え尽き空高く天まで届くように
一本の白い煙が立ち上っていた

この煙はいずれ雲になり
雨を降らし多くの人の渇きを潤すだろう


ボクシングを越えた勝負に立ち向かう彼の姿は
私に深い感動を与えた

 


●動物愛護

普通の人が現在自分の周りにある価値観や
ルールで善悪を判断し行動するのなら
革命家は己で善悪を判断し
自分の価値観で選択し行動する

だから私は過激な動物愛護団体に所属する
日系オーストラリア人の少女と出会った時も
犯罪者と逢ったという感覚はなく
自分の正義の為に他者に迷惑をかけ
人に追われてる人物だとしか思わなかった

法律は国によって違う
ある国では立派だと表彰される事が
ある国では犯罪になったりする
さらに人間にとっては善行でも
自然界では悪行だったりする

みんなが歩く道路すら蟻にとっては
家を塞がれ死活問題だ

だから動物の為に法を破る彼女は
私には強く綺麗な女性にしか見えなかった


人の作りし法を守り
人の作りし価値観で立派に生きて
人に誉められ生きて人生を終える。


それと同じくらい彼女は立派な人生を歩んでいると私は感じた

例え人から非難される方法だとしても
一匹の鯨を救い
その鯨が子孫を残し永きに渡り命を紡いだのら
救った意味は確かにある

人に感謝され鯨に恨まれる事も
人に恨まれ鯨に感謝される事も
等価だと思うからだ

もしも人に感謝され鯨にも感謝される方法が有るのなら、それが理想だ

「そんな方法あるわけないわ」
例え有ったとしても見つけるまでに時間が、かかって
実行する頃にはお婆ちゃんになってる

「その頃には鯨は居なくなってる!」と彼女は叫んだ

今、自分に出来る事をやりながら
よりよい方法を模索しながら生きる

それが人の正しい行き方だと私は信ずる

動物の為に生きし者と別れた私は
人々の為に彼女の事を語り続けた

彼女の費やした人生が動物の為だけでなく
人の為にも為るように。

 

●yayoiと言うジャンル

コウモリが鳥達からは「お前は動物だ」と仲間外れされ
獣達からは「お前は鳥だ」と仲間外れされたように
私はヴィジュアル系からはV系じゃないと、はみごにされ
世間からはヴィジュアル系だと区別された

実際、下北沢のロックで有名なライブハウスで
「ヴィジュアル系の人はタイバンつかないんで」と拒否られ
ヴィジュアル系で有名なライブハウスでは
「楽器を持たない人はダメだ」と言われ
弾けないギターを持ってステージに立った

開始1分で投げ捨てたがね


そして、いつしか人々はロックでもパンクでもなく
yayoiとい言うジャンルだと私の事を評した

 


●鶯谷のマリリンマンソン

私は鶯谷では、ちょいと名の知れた有名人だ

飲み屋で私に絡んできたヤクザ者が
「ミュージシャンなら歌ってみろ!」と因縁つけてきたので
黒い林檎をアカペラで熱唱してやった

すると30年ぶりに鶯谷に鶯が帰ってきたと絶賛され
鶯谷のマリリンマンソンとの2つ名が付いたのだ

 


●無知なる者の死

今日も1人、人生に疲れた者が身を投げた

普通の人である事に疲れ
けれど普通じゃ無いことを理解しない大衆は
彼女の事を仲間外れにして悪人扱いした

社会のお荷物に為って皆に迷惑をかけるぐらいならと彼女は、まだ12歳の娘を残し
自分勝手な個人の平均的総意である
社会を動かす利己主義の冷たい機械に引き殺された

私は骸に誓った

腐りきった世の中を破壊する
今、壊さねば魚の眼をした糞味噌は死に急ぐ

無知なる者は自分が無知だということすら知らない

そのくせ知ろうと努力もせず
単純な思い込みで自分と違う者を否定し批判する

無知なる者の作った常識
無知なる者が作った正義
無理なる者が作った社会

 

 

●貢ぐ女

月に50万円貢ぐから彼女にして欲しいと頼んできた女性がいた

「私は、すでに死者と契約した身
生者とは契約しない」

そう伝えた後で私は彼女に訪ねた

「告白して振られてから買収を持ち掛けるならまだしも
なぜ君は初めからお金を提示したのだね?」

女は涙ながらに俯きながら言った
「私は自分に自信がないのです
だから、こんな馬鹿な真似を...」

私は彼女に言った
「人が生きる為に食料を買うように
貴方は生きる為に愛を買っているのですね」

女は私に訪ねた
「私は惨めな存在でしょうか?」

私は答えた
「それは貴方以外の誰にも決める事は出来ない」

 

 

●深夜の墓場でライブ

俺は度胸をつける為に深夜の墓場で路上ライブした事がある

もちろん、ふざけたり遊び半分じゃなく
真剣に幽霊達に歌を捧げた

木が折れる音や怪奇なラップ音をドラムに俺はヨーデルを歌い続けた

そして、ついに歌い終えると轟音のカマイタチが俺を称賛してくれた

墓場でのライブで度胸をつけた俺は
それ以来、ステージで臆する事は無くなった

 

 

●帳消し

ぽかぽか陽気に誘われて東京の下町
郊外の渋谷と言われる町田を散歩していた

そんなよく晴れた昼下がりに
頬に1滴の滴が垂れてきた

上を見るとマンションの屋上から下を見詰め
今にも飛び降りようとしている青年の姿があった

私は偶然という不可抗力の事態に
神の意識、天命を感じすぐに彼の居る屋上に、かけ上がった

「お前を死なせる訳にはいかない」
私は叫びながら彼を引き留めた

掴んだ私の手を払うように泣き叫びながら
「僕は死ぬしかないんです」と強く訴える彼に語り続けた
「早まるな!話せば解る」

彼は私の事を酷い嘘つきを見るような目で見詰めゆっくりと呟いた
「僕を救える人なんて居ないんです」

私は言った
「私は神だ 俺に救えないものはない」

ようやく落ち着きを取り戻した彼の横に座り
下の道路を蟻の様に行き交う人々を見ながら彼の話を聞いた

聞けば友人の先輩からお金をかり
その借金が返せないと言うのだ

取り立てられしかなく善良な人々を苦しめる様な嫌な仕事をやらされたり
顎で、こき使われるうちに
人に迷惑を掛けて生きるくらいなら
いっそ死のうと思い立ったそうだ

話を聞きおえると辺りはすっかり夕暮れ時で町は赤黒く染めあがっていた

私は彼に言った
「死ぬ気があったなら何でも出来るだろう?

今までお前が迷惑を掛けた人達に償う為にも
死ぬ覚悟でその悪党と戦え!」

恐怖に震え下を見てる彼の肩に手をかけ言った
「安心しろ 俺が力を貸してやる・・・」

夕日で私の顔は真っ赤に染まり
カラスがバタバタと不気味に飛んでいる赤い世界で私はニタリと笑った

その笑顔は何処か恐ろしげで悪魔の様にも見えた


電話で一報いれてから先輩の住むアパートに向かい
部屋に招かれた

歳は40代前半くらいだろうか?
服の袖から見える腕には刺青が掘ってあり
厳つい体つきはをした中年男だった

自分が何者で有るかを簡単に説明し
自己紹介を終えたてから中年に言った

「彼はお前の存在に迷惑してる
二度と彼の前に姿を現すな」


すると中年は激昂し机を激しく叩き
私に鼻が触れるくらい顔を近づけ唾を飛ばしながら恫喝してきた
「ご託ならべる前に金返さんかい!」

金額を聞くと「80万払や」と言ってきた

私は中年に言った
「もともと借りた金が2万円なのにさすがにぼりすぎじゃないか?」

すると「やかましい!」と一喝して
「世の中には利子ちゅうもんがあるんや」と私に教えだした

一通り彼の勉強会に付き合った後で私は言った
「お前の主張している利息は高額な為に法律に違反している

それを知った上で高額な利息を請求するなら恐喝だな」

中年は顔色を変えながら言った
「俺は貸した金返して欲しいだけだ」

「法律もろくに勉強しないで金貸して高額な利子を請求したお前が悪い

だいたい無担保で金貸した時点で踏み倒される可能性を考えとくんだったな

それが金貸しが負うリスクてもんだろ?

貸した金については勉強代だと思って諦めるんだな

それとも己の無知を棚にあげ
これ以上、金を請求して犯罪者になりたいか?」

ぶるぶると首を横にふる中年を放置して
青年とアパートを後にした

私に礼を言う青年に言った
「死のうと思う前に生きる為に足掻け

どんな闇の中にも救いの光はさしてる

それに気付けるか気づけないか、だけなんだ...」


後から聞いた話だが
刺青中年男は町田では有名なヤクザ者で
ヤミ金やったりキャバクラ経営したりして荒稼ぎをしていたらしい

そんなライオン気取りの大将が
借金を踏み倒されたうえに一杯食わされたという噂は
あっという間に広がり
町田では帳消しのヤヨサンとして私の名は広く知れ渡っているらしい。


●心の強さ

あるとき悪魔が俺の体を操り
自らの体に666の刻印を刻んだ

それ以来、私には多くの最悪が降りかかった

しかし私は決して悪に染まる事はない

どのような悲しみや痛みも
希望と夢に満たされた心を砕く事は出来ないからだ

 


●子供の頃

子供の頃は酷いアトピーもちで
頭や体中が腫れて膿が溢れ出てい

それでも人には移らないからと
学校のプールを休む事も許されず
皆に避けられ気持ち悪がられなが毎日生きていた

夜になると母は針で俺の体を突き刺し膿が外に出した

厳しい仕付けに唾を吐きながら生きる俺を
最後に庇うのは母親だ


裁判官の娘で学校を毎日車で送り迎えされてたお嬢様が
俺の様な子供を捨てなかった事を考えると
ぶち殺したい程の憎しみを抱きながら俺は涙を流す

 

 

●食われた林檎

私は林檎の木を育てていた
その木には真っ赤な実が1つなっていた

その綺麗な実を見るのが楽しみだったのに
ある日、カラスに食べられてしまった

無残についばまれボロボロになり木からぶら下がる林檎を見て嘆いた

悲しみにくれて後悔だけを感じる毎日の中で思った

どんなに嘆き悔やんでも林檎は戻らない
あの林檎は食われる定めだった

こうなる運命なんだと諦め此れからの事を考え様と決心した

私は立ち上がり木に近づき
ボロボロになりぶら下がった林檎の実を引きちぎり
アスファルトに叩き付けた

 

 

 

●神の目線

自分には意思がなく自我を消失し
神の目線で物事を観てる事に気付いたのは幼稚園の時だった

引っ越しで幼稚園に友人が居なかった私は
いつも1人ぼっちで皆が遊んでいるのを観ていた

その時に気付いたんだ
周囲の人間を外枠から観察している自分は
限りなく神に近い立場で物事を見て考える事が出来る事に。

私の理解者は
私と同じ様に園児や園児と遊ぶ先生を見守るシスターの園長先生だけだったんだ

僕達はお茶をすすりながら
いつも黙って皆を見ていたよ

 


●格好悪い部分を見せる人

俺に腕立て伏せのやり方を教えてくれた友人が居た

ほとんどの奴が腕立て伏せのやり方を聞いたら
「普通に地面に伏せてやるだけだ」
だとか格好つけて答えるのに
そいつだけは「初めは俺も2、3回しか出来なかったけど続ければ出来るようになった」と本当の意味で教えてくれたんだ

自分を格好良く見せるんじゃなく
本当に相手の為に自分の格好良くない部分をさらけ出し教えてくれた友人に感謝しているし
私もそういう人間に成りたいと思ったんだ

 

 

●日々

オレンジのアンプにオヤイデンをぶっ刺し
お気に入りのベースを弾く

脳をくすぐる空気振動が耳の中から体内に侵入し
脳幹を通り脳髄を震わせる

指先に現れる、わずかな迷いが音に出て
そいつがオイラの機嫌を大きく損ねる

ムカつくアイツの鼻つらに
どうやって拳をめり込ませようか考えていたら
あっと言う間に日が落ちる

旬な食材で夕食を作り
シングルモルトを味わいながら
時の流れを感じていたなら
いつの間にか朝になる

 


●路上ライブ


都心部からちょいと外れにある小ぶりな街

 

最近に為って駅ビルが改築されたニュータウンの直ぐ脇にある巨大なコンクリート製の橋

遊歩道と車道が通っていて花壇が飾られてる

 

低コストで作る事を念頭におかれたのであろう芸術性の欠片も無い交通の為だけに存在する橋の上で

俺はフライングVを持ってコンクリートに咲く一輪の華の様に

強く逞しく生きるタンポポの様な曲を奏でていた

 

すると警察がやってきて俺の平和の歌を止めろと言って来やがった

俺はそいつに言ってやったぜ

「俺は誰にも迷惑かけてねぇ もしも迷惑してるて奴が居るてんなら此処に連れて来な!BOY」

 

すると警察官は俺にこう告げた

「私達は迷惑だと通報が有ったから音楽を止めに来たんだ!」

 

俺はすかさず言ってやったぜ

「だったら俺も通報するぜ!国家の番犬さんよ!俺に音楽を止めろと言ってる奴に迷惑してる!!いますぐソイツの口を閉じてくれ!!!」

 

目を丸くして絶句してる警察官に俺は語りかけた

「さーこれで音楽を止めろ!と主張する人と音楽を続けて良いて考える人の数は1対1だ!!アンタはどっちに付くんだい?まさか民主主義に反して俺を追っ払う気じゃないだろうな!!」

 

俺を取り囲む警察官は徐々に増えていき

いつのまにかオーディエンスは制服姿の警察官だけになった

 

誰も俺の音楽を聞いちゃいない

警察に取り囲まれてる俺を見て楽しんでる町人どもに無性に腹がたった

 

いま此処に集って俺の事を見ている連中は

音楽よりも面白そうな出来事を見たいだけの、どうしようもない物好きどもだ

 

こんな馬鹿どもに聞かせる歌を俺は持ち合わせていねぇ

 

俺は群集に叫んだ

 

「このクソ共が!!俺が苦しんでる姿を見て楽しんでやがるな!この暇人のマグソ野朗が!!とっとと失せな!!」

 

静まり返った群集の中から「音楽やめんのか!?」と声が聞えた

誰が発したとも判らない声に俺は叫んだ

「俺のビートを聞きてぇてのか?だったら歌ってやるぜ!!!」

 

俺はギターを振り回しながら触れる者は全て切り裂くような最高にファンキーな曲を熱唱した

 

「俺が歌うと決めた以上は何人たりとも止める事はできん!」

 

ついに歌い終えた俺を取り囲んでいた警官が俺言った

「人の迷惑を考えない野朗だぜ!」

 

俺は、そいつに言ってやった

「俺もアンタ達には迷惑したぜ?ほんの一瞬だけどなぁ!だが俺は自らの力で乗り越えたー!!」


 

そして拍手喝采の中で歌い終えた俺は群集に背を向け駅の方に歩いた

帰り際にオーディエンスに背を向けたまま振り向き俺は天にも届く声で叫んだ


 

「自分の願望を叶え様と他人に頼った奴とは気合が違うんだよ!!!!」

 

 

 

 


●ゆとり教育


私が学生の頃に大人の都合で突然、土曜日が休みに為った

俗に言う、ゆとり教育の始まりだ

 

金曜日に先生から「明日は休みだから学校来るなよ」と笑いながら言われ

クラスメート達も笑いながら子供らしく「はーい」と答えていた

 

しかし俺はムカついていた

今まで俺は毎週、土曜日も学校に行かされていたのに

之から生まれる奴は全員、土曜日に学校を行かなくてすむからだ

 

土曜日は学校に行くものと思い込んでた常識が

政治一つで簡単に壊れたのだ

 

俺は、この時に常識とは誰かが作ったもので

誰かの都合しだいで簡単に壊される物だと学んだ

 

しかし、それを理解してる人は少ない

 

常識という固定概念に自律神経を支配されてる人達は

人によって作られた常識を絶対的に正しく普遍な世界だと思い込んで生きている

 

私は彼らとは違う物を見て育ち違う世界で生きている

 

 

 

●神のいない世界


幼稚園生の男の子 二人が砂場で山を作っていた

その二人は砂場を独占して遊んでる悪い子供だ

私は砂場に駆け寄り山を踏み潰した
それは、まさに神の一撃の様に全てを破壊した

子供達はなす統べなく呆然としていた

私は、そのまま走り抜けその場から消えた

公衆トイレの裏からこっそりと砂場を見ると
砂場の占領者は、またも山を作り始めた

ふたたび山が完成したと同時に
神の右足で山を粉砕し子供では到底追い付けない神速でその場をから立ち去った

流石に心が折れた様で彼等は砂場から立ち去った

解放された砂場には多くの小さな子供達が集い
笑顔が溢れた

公園で最強の力を持つ神たる私は
皆の為に力で弱きを虐げる悪を挫いてきたのだ

しかし公園には何時しか不審者注意の張り紙がされ
人々は神を恐れ迫害した

神の居なくなった砂場は再び
強きが支配する弱肉強食の地に変貌したのだった。

 

●バームクーヘン


ある薬師が、どんな巨像でも
たちまち死においやる事が出来る猛毒を開発した

早速その薬を殺し屋に売りに行くと
本当に猛毒か確認したいと言われた

「良いですよ」と殺し屋と貧困街におもむきバームクーヘンに猛毒を仕込み地面に置いた

すぐに腹を空かせた哀れな老婆が通りかかり
バームクーヘンを拾った

偶然通りかかった私は叫んだ
「hei! そこの老婆! それを食えば大変な事になるぞ!!」

老婆は顔をしかめバームクーヘンを背中に隠した

私は老婆に語りかけた
「こんな所にバームクーヘンが落ちてるなんて、おかしいと思わないかい?

 

そして、そこの物陰で貴方がバームクーヘンを食べるのをニヤ付いた顔で見ている怪しい男が二人居る!

 

悪い事は言わない

 

そのバームクーヘンを、お捨てなさい」

 

老婆は私の顔と物陰に隠れていた怪しい二人組みの顔を交合に見た

 

老婆は私に言った

「さてはお前、このバームクーヘンを奪う気だね!!」

 

私は「馬鹿な事を言いなさんな」と人差し指を口の前に立てて

チッチッと横に振って語りかけた

 

「私は己の私利私欲の為に貴方を引き止めた訳では御座いません

破滅したくないのなら、どうか私を信じておくんなさい」

 

老婆は、「この嘘つきが!」と私を一喝して続けた

「お前を信じないと私が破滅するだって?ふざけた事を言うでないよ」

 

そして老婆はムシャムシャとバームクーヘンをほうばった

 

たちまち毒が回り老婆は血を吐いて地面にコロリと転がった

 

血泡を吹きながら助けを求める老婆に私は言った

 

「もう手遅れだ」

 

私は哀れな老婆に合唱をした。

 


●普通の人


わりと混雑している電車の中で

何処ぞのド田舎から来たか判らない金髪角刈りの肉体労働者風の風貌をした青年が

椅子に浅く腰をかけ組んだ足を前に突き出し悠々と座っていた


彼の足を避ける様に混雑した電車で

ソイツの前だけ人が居なかった

 

てめぇが長く見せようと精一杯、前に突き出してる

その足が邪魔なんだよニーチャン


私がいつもの様に大学ノートに物語を書いていると突然声が聞えた

「言いてぇ事があるならハッキリ言えや!」


俺は声のする方を見た

すると、まさに私の物語の主人公に決定された青年労働者風の男が俺の方を睨んでいた


私は直ぐに理解した

ノートに書きながら声に出してしまっていた事を。


俺は直ぐに弁解した

「私は思っている事が声に出てしまう事が有って別に君に言ってる訳ではないんだ!」

 

すると若い肉体労働者は「あん?」と舌打ちしながら俺を睨んだ


私は、どうすれば自分の気持ちが相手に伝わるのか考えたが

どう説明しても伝わらない様な気がしたので開き直る事にした


「だったらハッキリ言ってやるぜ!

どちびのテメェが一生懸命前に出してる、その短けぇ足が邪魔なんだよ!このカス垂れが!!」


山口弁でドスの利いた私の声を聞いたそいつは

まるで私がヤバイ奴だという様な態度で常識人を気取り

私より一センチほど背の高いソイツは、そそくさと電車から降りた


とりのこされた私は周囲から距離を空けられ

まるで危険物でも有るかの様な扱いを受けた


ジトジトと感じる人々の視線に

どうにも我慢ならない居心地の悪さを感じた俺は言った

「お前らの気持ちが俺を突き動かしたのに、この扱いか?クソが!!」


俺は本来降りる予定じゃなかった次の停車駅で

その電車を後にした。


そして次に来た電車に乗った

この車両に俺を知ってる奴は誰も居ない


前を走る車両で何をしたところで

この車両では俺はただの小気味良い爽やかな青年にしか見えないだろう

 

だが、その車両に一人だけ俺を知っている人物が居た

前の車両で俺にイチャモンを付けて来た若い労働者だ


俺達はお互いに顔を見合った

そして、直ぐに視線を外した


二人は何事も無かったかの様に静かに電車に揺られていた


けして二人の視線が合う事は無かった

 

互いに、此処では普通の人で居たいと思ったからだ。


この車両に乗り合わせて居る普通の人を気取ってる奴等と同じようにな

 


●役割


俺の友人が悪い飴をしゃぶってる事に気付いたのはつい最近だ

死んだ金魚みてぇな目をして
手をプルプルと震わせてたからだ

そしてトイレが長く何時も煙に巻かれてる


危険な遊びの虜に為っている友人の事を不憫に思い
オモチャを取上げなければ結果的に汚染を深刻化させ
本人を苦しめる事になる

一見、可哀想見えても牢獄に監禁する事が一番本人の為になる

友人に恨まれ友達だという絆は失うかもしれない

けれど友人という個人そのものを本当に愛しているのなら
愛のために絆を破棄してでも行動を起こすべきだ

しかし一方でこうも考えた

他人の生きかたに口を挟み
大きく起動を変えるような真似を行う事が正しい事なのだろうか?

そんなことは家族や恋人なんかがやれば良いことで
友人と言う絆で結ばれてる俺には
友人として位置脱しない範囲に
自分の行動を留めるべきなのでは無いかと感じたのだ

結局、私は自分以外に出来ない事をした
あるがままに、なすがままに
自分が思う通りにした

それが、ある見方によっては間違ってると言われ批判されるとしても
自分以外に代わりのいない
自分しか出来ないことをした


それが役割てもんさ

 

●侵入者


側2車線の大きな幹線道路道

隣接する歩行者道との間がガードレールで別けられており

イチョウの木が植えてある緩やかな下り道を歩いていた

 

左右にはオシャレなカフェや小さなショップが立ち並ぶ


 

石鹸の専門店からは人が作り出した業とらしい科学的なアロマの匂いが香る


 

そんな心地よい散歩の中で物思いに耽っていると


建物と建物の隙間に一本の小道が有った

 

人が二人手を繋いで通れるギリギリの細さだ


 

私は、何の躊躇い無くその道に入った


 

すぐに先が見えてきて行き止まりだと認識した時に後から呼び止められた


「この道は私道だから入ってくるな」

振り向くと都会の裕福層の中年が私服で着そうな

わりと仕立てのよいカジュアル服を纏った少し日焼けした中肉中背の男性が此方を見ていた

 

私は彼の発言がハッキリと聞こえず何を言ったのか詳細に理解できなかったのと


どの道この道、行き止まりで引き返すしか無い為に回れ右して元来た道を戻るため静かに歩いた

 

彼の横を黙って通り過ぎる


 

通り際に「私道だから勝手に入らないで下さい」と彼は怒りながら私を呼び止めた


 

近くで彼の顔を見ると疲れと怒りが入り混じった


くたびれた中年男の悲壮感を漂わせていた

 

ここで社交辞令的に簡単に謝罪し立ち去るのが大人のマナーだと理解していたが


無意味に道を守り続け疲れていく彼を救えるのは私しか居ないと感じた。

 

「そんなに入って欲しくないのなら柵でも付けたらいかがですか?」


 

私は仏の微笑を浮かべながら優しく彼に語りかけたが


かえって彼を苛立ててしまったようだ

 

すこしムッとしながら「看板が有るのに入ってくる奴が悪い!」


と、強く大きな声で私に怒りをぶつけてきた

 

彼の指差す方向を見ると、なるほど看板が立っており


’此処から私道、はいるべからず’と書かれていた

 

彼が私道だと主張する私道と歩道に境目はなく


同じ色のアスファルトで繋がっている道の横に看板が建てられていた

 

私は「看板が見えなかった。どうせなら道の真ん中に立てれば良いのでは?」と提案すると


「看板を見ない奴が悪い」と怒っていた

 

多くの人が彼の私道に迷い込み


その度に彼は不法侵入されたと怒り、うんざりしている

 

しかし道に迷い込んだ者も、この道が私道で


直ぐに行き止まりに為る詰まらない道だと判っていれば

無駄に入ってくる事も無かった

 

無駄に迷い込んだ人も被害者だと言える


 

 

実費で看板を作り自らの道の主権を守ろうとする彼は

 

庭に入ってくる猫を追い出そうと怒り狂う自分の婆とダブって見えた

 

自分の庭で糞をする猫を心底憎み


イラつきながら誰のものとも判らないネコがした糞の後始末をする婆に

「そんなに猫が嫌いなら侵入防止の柵をつけたら良いじゃないか」と言うと

「幾ら掛かると思っているんだ!」と怒られた事が有った

 

侵入を拒む者と悪気無く侵入する者


その攻防は永遠と続いていくのだろう

 

その場所を自分だけのモノだと思う者と


皆のモノだと思う者が居る限り。

 

 

帰り際に後を振り向き私道を見ると

 

番人はギラツイタ眼で私を睨んでいた。

 

 

●汚い公園


大好きな公園を綺麗にしたい

 

毎日ゴミを拾うけどいっこうに綺麗にならない

拾っても拾っても増えてくゴミが心に詰まる

 

諦める心が嫌になる

全てを諦める前に全てを投げ出そう考えた

 

奇跡よおきてくれ すべてを救う軌跡よおきてくれ

 

 

大好きな公園を綺麗にしたい

 

ゴミを捨てる奴は次から次に湧き出て減る気配なし

溜まり行くゴミと絶望に出火寸前怒り爆発

 

怨念の心が嫌になる

全てが嫌に為る前に全てを燃やそうとも考えた

 

奇跡よおきてくれ すべてを救う軌跡よおきてくれ

 

 

大切な自分を守り続ける

 

もう綺麗にする事は諦めた自分を守る戦いだ

無駄と知っても続けるのは自分のためだ

 

孤独の心が嫌になる

全てが砕け散った後に残るのは哀れみ同情だけ

 

奇跡がおきた すべてを救う軌跡よおきた

 

 


●虐め

 

俺は女装癖のある中年のヘンタイをロープで縛りつけ鞭で肉を切り刻んでやった

 

こいつは自分の事を可愛い女の子と思い込んでる

俺は、変質者の要望通りに思いっきり鞭を叩き付けてやった

 

俺の目には、ただ化粧したオッサンが鞭で叩かれ

感じながら、よがってる様にしか見えないが

こいつの脳内では少女の自分が悪人に虐められてる事に為ってるんだろう

 

俺はオッサンを踏みつけグリグリと靴の踵で抉った

 

本気で嫌がってるのか本気で嬉しいのか誰にも判らない

こいつ自身にすら今の自分が幸せなのか不幸なのか判らないのだろう

 

俺は聞いた

「お前は今、幸せなのか不幸なのかどっちなんだ?」

 

変態は苦しみながら息を荒げよがってる

 

 

俺は思った

 

この変態は不幸を楽しんでる

不幸に喜びを見出してるんだ

 

こいつは救いようのねぇ変態野朗だ

 

だけどよ・・・

 

こいつの人生観はとてつもなく狂っているが

きっとコイツは幸せなんだろうなって感じた

 

それが、なんだか無性にムカついて

俺は野朗のケツを思いっきり蹴り上げてやった

 

殴って殴って殴りつけ

もう殴る気力すら無くなるほど疲れたので変態を開放してやった

 

お互いがハッピーに為れる俺達の関係は

最高に美しい理想の関係なのかもしれない。

 

 

 

●樹海の糸

 

生きる事に疲れた私は樹海に行った


街道がぎりぎり見えない位置まで森に入り込み
樹の幹に青いビニールロープを巻き付けた

 ロープをするすると伸ばしながら森の奥にはいる

 もしも、このロープが途中で切れれば
何処を見渡しても樹しか見えない森ではあっという間に迷子になるだろう

奥に奥にと進むうちに辺りはすっかり暗くなり
不気味に虫や鳥が鳴き叫ぶ

 その鳴き声は「腹が減ってるんだ!さっさと死ね」と言ってる様に聞こえる

樹には藁人形が釘打ちされ
枝には首吊りロープが掛かってる

 いよいよ冥福の入り口が見えてきたと感じた

 


 そしてとうとう手持ちのロープが終わりを告げた

 


厚紙素材で出来た芯が足元にころがり

終わりを告げたビニールロープがビヨーンと

延ばしたゴムが元に戻る様に森の奥に消えていった

 


 それでロープを見失った訳ではないが後戻りをするか私は考えた

 


生きて何になるのだろうか?

 辛い苦しみを感じながら人々に迷惑をかけて

生への執着のロープが森を汚した

 


自分が生きる事で誰かを傷つけ苦しめる

自分が死ぬ事が生きてる人達への何よりの貢献だと感じた

 


私は命の青いロープが消えて行った暗闇と正反対の暗闇を突き進んだ

 


一歩、一歩と進むうちに死に近づき生から遠ざかる

 


 もう、どれほど死に向かい歩いただろうか?

 自分が何処から来て何処に向かってるのかすら判らなくなって歩くのを辞めた

 


 もう歩く事に意味など無いからだ

 

 

自分が生まれて来た事にすら意味は無く

生きてきた事にすら意味は無く

意味無く私は死んでいく

 


無意味なものが無に帰るだけだ。

 


 喉の渇きが酷くなるにつれて神への怒りが込み上げて来た

 


苦しみから逃れる為に死に向かって歩いた先で、また苦しむ

 この苦しみから逃れる為には水を飲んで生きねば為らない

 


生きようとしても苦しく死のうとしても苦しい

 


永遠に逃れられない苦しみを感じる生命という体質に怒りを感じ

 もっと大きな世の中の全てを創ってる、いい表す事すら出来ない全てに怒りを感じた

 


私は大声で叫んだ

涙を流しなら叫び散らした

 


 そして立ち上がり歩いた

 


 べつに今、自分が感じてる苦しみを晴らそうとか

自分の苦しんで生きてきた事を無意味なもののまま終わらせたくないとかって理由じゃない

 


 もしも此処から生きてだられた先の事は何も考えてない

 


狂った様に私は森を歩いた

 


進んでるのか戻ってるのかも判らない

 


 ただ我武者羅に歩いて歩いて

真っ暗な森に朝日が差し込んで、それが無性に美しかった

 


高い樹海の樹の葉っぱで拡散され

無数に闇に振りそそぐ光の柱の中に糸を見つけた

 


 その糸が、この森にどれだけ存在していたのかは判らない

 ボロボロのビニールは色をすっかりと無くし

太陽の光に照らされ金色に輝いていた

 


誰かが死ぬ為に張った糸なのか

生への未練から張った糸なのか判らない

 


 ただ私は誰のものとも判らない苦しみの糸を握り締め

 その糸をひたすら辿って進んだ

 


 この糸を残した者が生きているのか死んでるのかすら私には判らない

 ただ、確かなのは

 その人のお陰で私は今、生きている。

 

 

 


●路上ライブ

 

都心部からちょいと外れにある小ぶりな街


最近に為って駅ビルが改築されたニュータウンの直ぐ脇にある巨大なコンクリート製の橋

遊歩道と車道が通っていて花壇が飾られてる


低コストで作る事を念頭におかれたのであろう芸術性の欠片も無い交通の為だけに存在する橋の上で

俺はフライングVを持ってコンクリートに咲く一輪の華の様に

強く逞しく生きるタンポポの様な曲を奏でていた


すると警察がやってきて俺の平和の歌を止めろと言って来やがった

俺はそいつに言ってやったぜ

「俺は誰にも迷惑かけてねぇ もしも迷惑してるて奴が居るてんなら此処に連れて来な!BOY」


すると警察官は俺にこう告げた

「私達は迷惑だと通報が有ったから音楽を止めに来たんだ!」


俺はすかさず言ってやったぜ

「だったら俺も通報するぜ!国家の番犬さんよ!俺に音楽を止めろと言ってる奴に迷惑してる!!いますぐソイツの口を閉じてくれ!!!」


目を丸くして絶句してる警察官に俺は語りかけた

「さーこれで音楽を止めろ!と主張する人と音楽を続けて良いて考える人の数は1対1だ!!アンタはどっちに付くんだい?まさか民主主義に反して俺を追っ払う気じゃないだろうな!!」


俺を取り囲む警察官は徐々に増えていき

いつのまにかオーディエンスは制服姿の警察官だけになった


誰も俺の音楽を聞いちゃいない

警察に取り囲まれてる俺を見て楽しんでる町人どもに無性に腹がたった


いま此処に集って俺の事を見ている連中は

音楽よりも面白そうな出来事を見たいだけの、どうしようもない物好きどもだ


こんな馬鹿どもに聞かせる歌を俺は持ち合わせていねぇ


俺は群集に叫んだ


「このクソ共が!!俺が苦しんでる姿を見て楽しんでやがるな!この暇人のマグソ野朗が!!とっとと失せな!!」


静まり返った群集の中から「音楽やめんのか!?」と声が聞えた

誰が発したとも判らない声に俺は叫んだ

「俺のビートを聞きてぇてのか?だったら歌ってやるぜ!!!」


俺はギターを振り回しながら触れる者は全て切り裂くような最高にファンキーな曲を熱唱した


「俺が歌うと決めた以上は何人たりとも止める事はできん!」


ついに歌い終えた俺を取り囲んでいた警官が俺言った

「人の迷惑を考えない野朗だぜ!」


俺は、そいつに言ってやった

「俺もアンタ達には迷惑したぜ?ほんの一瞬だけどなぁ!だが俺は自らの力で乗り越えたー!!」


そして拍手喝采の中で歌い終えた俺は群集に背を向け駅の方に歩いた

帰り際にオーディエンスに背を向けたまま振り向き俺は天にも届く声で叫んだ


「自分の願望を叶え様と他人に頼った奴とは気合が違うんだよ!!!!」

 

●献血


「あ~うるせぇ」

ぶっ壊れたマーシャルのアンプがズビズビと豚みてぇな泣き声を発してる

 

 

ベットの下には3&7の空き瓶が転がっていて


迂闊に寝床を離れられない

 

 

しょうがねぇからと寝て過ごして

 

ここんところ何もしない毎日を送っていた

 

高等な音と鳴らせとウルセェ豚野朗に蹴りをお見舞いして黙らせた


 

次に電源を入れたら余計にズビズビと鳴き出したので


もっと歪んだ声で泣き喚けよ!と捏ね繰りまわすと

ご機嫌をそこねた様で黙りこくりやがった

 

町に出ると相変わらず何処の誰とも判らない奴等が疲れきった顔して歩き回り


立ち止まって叫んでる奴等は、まるで生まれたばかりの赤ん坊に聞かせるような

おべんちゃらで出来た建前を主張する宗教家くらいしか居やしねぇ

 

「血が不足しています!献血にご協力ください!」と


慈善を口にして集め回った血を高値で売りつける吸血鬼どもに胸糞悪くなったので

「誰がテメェの食い扶持の為に血をくれてやるもんか!」と罵声を浴びせると

まるで俺が非道徳な頭の可笑しい人みたいにジロジロと周囲の人間に見られちまう

 

人の善意に訴えかけてタダで血を集め


集めた血を売って稼いでる悪党共に悪人扱いされるのは、まったくもって胸糞わりぃぜ

 

それなのに世間様じゃ忌々しい吸血鬼の方が


誰を騙してる訳でもない飲んだ暮れの俺より立派な社会人として扱ってやがるから

まったくコノ町の奴等は、どいつもこいつも頭が可笑しいんだろうな

 

そんな頭の可笑しい連中だから


気持ちのわりぃ笑顔を浮かべて喜んで血を提供するんだろう

 

 

 

突然、車のクラクションが鳴り響き

 


気づいた時には空を舞っていた

 

気づくと病院のベッドの上で


医者が優しく俺に笑いかけた

「気分はどうですか?」

 

どうやら俺は車にひかれたらしい


 

俺は医者に聞いた


「まさか俺の体に他人の血液を入れちゃいないだろうな?」

 

医者は首を傾げながら


「出血が多かったので輸血しました」と俺に告げた

 

俺は、心の底から自分が気持ち悪くなり叫んだ


「血だ!いますぐ俺の血を抜けクソが!!」

 

医者は困惑しながら言った


「もう君の血と混ざって体の中を流れてるから分ける事は出来ませんよ」

 

俺には、諦める事しか出来ず


ただ、項垂れてるだけだった

 

 

病室から見える空の色は俺の体に流れる血液とは正反対に真っ青だ

 

 

俺の体内に入れられた血液の持ち主も


まさか、ここまで自分の血液が嫌がれるとは思いもしてなかった事だろう

 

いったい、この血の持ち主はどんな気持ちで血を寄付したのだろうか?


 

善意の気持ちで寄付したのか


ただの興味本位で、たった一度の献血の血が偶然、俺に入れられたのかは判らない

 

 

俺が嫌ってる奴等が集めた血を自分の体内に入れられて

 

俺は、これからどうやって生きればいいのだろうか?

 

久しぶりに会った両親は笑顔で「助かってよかったね」と何度も泣きながら俺の頭を撫でた


 

それを見て俺は助かって良かったのだと感じた


 

 

俺が生きる為に努力してくれた全ての人に感謝している

 

 

血を提供し集めた人達


そして事故を通報し現場から病院まで俺を運んでくれた人達

 

もちろん医者や看護婦にも感謝してる


 

それでも、俺の胸には胸糞悪さが残っていた


 

心から感謝してるけど胸糞わりぃんだ


 

 

それは、きっと俺の事を否定した奴等のせいだ

 

 

「この社会の屑が!!」


「ごく潰しの酒飲みが」

 

俺の事を否定した奴等に痛みつけられた俺の心が感じていた怒りが


俺が否定していた連中に、そのまま向かい送られていると感じた

 

俺が感じている怒りや、胸に痞える胸糞悪さの行き場所は本当に正しいのだろうか?


 

そいつを知る為にも病院から出たら


とりあえず俺を否定し俺に悪口言いやがる奴等には報復してみようと思うんだ

 

もしもそれで、俺の気分が優れるなら


きっと怒りを張らず相手は奴等で正しいんだろう

 

もしそれでも俺の気分が優れねぇんなら


どうやったら晴れるのかユックリと探していくしかねぇよな!

 

 

●警察に通報された救済魔人

 


いつもの様に救済ライブを行った時に一人の少年が激昂しながら私に詰め寄った


「何が救済者だ!このアナキー野郎が!」


私に掴みかかってきた少年の眼差しは怒りの烈火に燃えており

私の顔面に彼の炎が飛び火した


私は黙って血を流しながら彼の炎を受け止め続けた


「黙ってないで答えろ屑!」


燃え上がる炎は、いづれ周囲を燃やしつくし消える

その事を知っていた私は、ただ黙って熱い痛みに耐え続けた


彼が殴り疲れ息切れをしながら落ちつきを取り戻した頃に

なぜ、ここまで怒りの炎が燃え上がったのか彼に尋ねた


話を聞くと彼は、私が世の中を破壊しようとしてる悪人でありながら

正義面して講釈を垂れてる事に我慢できなくなったと言うのだ


洗脳され私の信者に成ってる人達を救う為にも

悪の教祖である私を討ちに来たと言うのだ


彼の大儀を聞いた後に私は言った

「悪を正そうとする心は立派だが君は手段を間違えてる」


暴力で悪を討つ行為が悪であるからだ


真に正義の為に大儀を果たしたいのなら

暴力と言う手段で解決を図らず

別の方法で解決を図るべきだった


なおも怒りが収まらない彼は私に叫んだ

「だったらお前を警察に通報してやる!」


私は伝えた

「犯罪性が高いと感じるのなら国民として警察に通報する行為は立派だ

君は君の信じる正義を全うするがいい…」


警察署に連れていかれた私は取調べを受けたが

結局、法を犯している証拠は無く釈放された


警察署から出てきた私に人々は唾を吐きながら罵声を浴びせた


「証拠が無いから不起訴か・・・上手い事やりやがって!犯罪者が!!」

 

私は彼らを見て思った


彼らは正義の心を持った人達だ

正義の心があるが故に私を断罪しようとしているにすぎない


もしも私が処断され、それで彼らが正義の名の下に一つになり

今の世の中に平和が訪れるのなら私は悪として死のう


そして幾つもの時を越えて私は復活するだろう


後の人々が「救済魔人は正しかった」と再考したときに

私という概念が再来する

 

●豚肉


今夜のディナーはポークソテーだ
丸焼きにした雌豚を前にして私は祈った

もしも私が今夜、お前を食べなければ
お前は、もう少しばかり生きていけたかもしれない

しかし私に食べられるが為に寿命を迎えた

人に食べられやすいように
弱く肉の多い固体の交配により作られたお前達は
人に食べられる為に餌を与えられ
子孫を残す事が出来る。

そして人に食われ死んでいく

それがお前の運命なのさ


案ずる事は何もない

私達人間も同じなのだよ

産まれたら教育され仕事をして死んでいく
労働力として生かされてるだけだ

もしも仕事なんてせずに毎日、遊んで暮らす事が出来れば
私達はもっと長生き出来る

命を削って社会の役にたつことで生かされてるにすぎない

豚共が人の役にたつために生かされ
最後は食い殺されて死んでいくのと同じ様に
社会の役にたつ為に生かされ
労働力として国に食い殺されて死んでいく

さて、私がディナーのメインディッシとして
お皿の上に乗るのはいつだろう?

その時まで生きるだけさ
自分らしくな

私は豚を食べた
命の味がした。

 

 

●幼少期の記憶

幼稚園生の時に俺は木の棒で
自分が如何しても許せない先生を殴ろうとした事がある

その時に、その先生の事を大好きな女の子が身を盾にして庇った

悪人を助けようとする、ソイツも悪だと感じた俺は
纏めて断罪しようと高らかに木の棒を構えた

先生は、十字に手を広げ俺と自分の間に立ちふさがる女の子を抱え込み庇った

俺は本気で振り下ろそうとしたが体が動かなかった

俺は善や悪だとか難しい理屈や理論は何も考えてない

ただ、体が動かなかった。


それが神の御加護によるものか
女の子を庇った行動を見て本能的に悪人で無いと感じたからなのかは判らない

ただ、俺の体は動かなかった

 


●警官と救済魔人

 

中年警官が俺に言った

「俺は君に一言だけ言いたい!

此れは苦言なんだが俺も若い頃は知らない事が沢山あったし
自分の考え方と社会の成り立ちが違うんだって判った事が一杯有る

その時に俺は、社会て、こう言う物なんだと学んだんだ」


俺は言った

「貴方はね。

俺は自分の考えと違う社会に疑問を持ち
社会を正す生き方を選んだんですよ」


中年警官は言った
「私は警察官に成って40年経つが君みたいな人間は初めてだよ」

 

●遅れた電車


電車に乗っていると突然、目の前に座っていた女子高生が痙攣しながら泡を吹いて倒れた

車両に乗っていた数人がザワザワと騒ぎだした

同じ車両に乗り合わせていた若者ぶった格好をしたハイカラ気取りの不良中年が
「誰か助けろよ」と誰に言うでもなく指図していたので
「だったらテメェーが助けろよ」と目で訴え
私は彼女に近づき丸出しのパンツを隠した

首もとをから胸元を凝視したが
何も代わった物は持ってなかったので
椅子から落ちないように寝かせ
向かいの元々座っていた席にもどった

次の駅に着くと電車は止まり車掌が入ってきた

事務的に安否を確認して
意識のない少女を外に連れ出しベンチに座らせた

 

少女を、ほったらかし電車の発進作業に集中する駅員に
不良中年は「お前等、救急車よんだのかよ?」と怒鳴っていた


駅員は「たぶん呼んでると思います・・・」と歯切れの悪い回答を言うしか出来ず

それが不良中年を余計に苛立たせ駅員に激怒しながら食って掛かっていた

 

不良中年は少女の安否を心配して人命より職務優先の駅員に激怒し
駅員は電車が遅れれば少女の賠償問題に発展する可能性も有る為、電車の発進を優先させた


私は症状を見て数分後には目覚める癲癇で大事はないと判断したが
プラカードなど癲癇を裏付ける証拠が無かったので
最低げんの安全だけ確保し高みの見物を決め込んだ


それぞれ人間の思惑がすれ違い、その場が悪化して行く

 

それぞれが少女の為を思い

少女の事を考えてる者同士が争う状態を私は、ただ黙認していた

 

 

ほどなくして少女は目覚め、その場に安堵と笑顔が戻った

 

その場で精一杯の行動を起こした者は喜び

傍観者は事の結末を知り

無関心者は電車の遅れに苛立っただけだった

 


●捨てられた痛み


ギターを弾いて思い出したのは
女の子に振られた時の痛みだ

言葉は思い出せない
顔は判らない

ただ、彼女に見限られ捨てられた
痛みだけは心が覚えてる

それなのに女を求めずには居られない

どうしようもねぇ生き物さ

だから俺はお前の後を追いはしない
お前が去るてんなら俺は、涙を流しながら痛みに耐える

それが俺に出来る唯一の礼なんだ

さよなら キャサリン

本当に愛していた

可愛い子が居れば見とれてしまうし
直ぐに一目惚れする女好きのオイラだけど
確かにお前を愛していた

その気持ちすらアンタは気付かぬままに
俺に遊ばれたと傷付き怒って居ただろうけど
俺は愛してたんだ

だから何の言い訳も説明もせずに
去り行くアンタを追わなかったのさ

ギターの音が溶けていって
思いでも溶けていって
痛みだけを残して消えてった。

 

●昔のクリスマスプレゼント


クリスマスに女が俺の家に乗り込んできた
「あんたって本当に最低な男ね!」

 

俺は酔いのさめない頭を必死で動かして
何日か前にクリスマスを一緒に過ごそうと口説いてた事を思い出した

 

でも、その時に女は明確に俺と一緒に過ごすと言わなかった

 

ただ俺の口説き文句を聞いてるだけで
俺と一緒に過ごすと約束してくれなかった

 

だから俺は酒を浴びるほど飲んで
クリスマスは一日寝て過ごすて決めたんだ

 

俺は言った
「だって、俺が誘っても無視したじゃねぇか!
今更、家に押しかけてくるんじゃねぇ!!」

 

女は激怒して口煩く俺を猛批判していたが
俺は思わず笑っちまったね

 

こいつ、どんだけ寂しい奴なんだって。

 

でもクリスマスにこんな馬鹿の話を聞かないといけないのは
他に誰も俺にメリークリスマスを言ってくれないからだと気付いた

 

誰かが俺と一緒にクリスマスを祝ってくれてたら
こんな気持ち悪い奴と同じ空間に居る事事態が無かったからだ

 

サンタが俺の元に来てくれなかったのは俺が悪い子にしてたからなんだろうか?

 

それで神様はクリスマスに
こんな気持ち悪い奴を俺の前に寄越したんだろうか?

 

こんな不愉快なクリスマスを過ごした原因が俺にあるて言うなら
あまりにも神様は厳しすぎるぜ

 

どーせ他にやる事もないし
俺はこの気持ち悪いプレゼントと過ごす事にした

 

向こうも同じ様な感覚だろう

 

「寂しい奴同士のクリスマスか…」

 

ケーキを食べてチキンを食ってるうちに
一人で食うより良かったかもしれないなぁと感じた

 

思えば親が枕元に置いてくれてたプレゼントに満足したことなんて一度も無かった

 

いつも俺が欲しいと思ってる物と違うんだ

 

それでもプレゼントが無ければ寂しく悲しい気持ちに為るだろう

 

そして俺は思った


彼女が俺にとってのクリスマスプレゼントなら
今年一年、俺が良い子にしてたのを神様はちゃんと見ていてくれたのかもしれないて感じた

 

 

 

今では、あのクリスマスに貰ったプレゼントと遊ぶ事は無いが
今でも俺はハッキリと覚えてる

 

「そういえばアレどうしたっけなぁ?」

捨てた記憶は無い、あのクリスマスプレゼントを思い出し


もっと大切にしとけば良かったと思った。

 


●じゃんけんぽん


僕の事を熱烈に愛してくれた女性が居た

けど僕は興味が無かったから
ジャンケンで勝ったら付き合うけど
負けたら帰る様に言ってジャンケンしたんだ

「最初はグー」て言ってグーを出した彼女にパーを出してこう言った
「はい。僕の勝ちだ」

怒るかなって思ったけど僕の出方を見ていたので
僕は自分の正当性を説明した

僕はグーを出すように強要してないし
明確にルールが有るわけじゃない
「君が自由意思でグーを出したのだから君の負けだよ」

すると彼女はこう言ったよ
「だったらパーがグーに勝つなんてルールも守る必要ないわね」

それで僕は彼女を気に入ったんだ

 

●不味いブレンド・コーヒー


赤煉瓦と白煉瓦が交互にはめ込まれた石畳でできた坂道

 

電気仕掛けのガス燈が立ち並び左右には小さな店がつらなるモザイク通りを上がっていると

夏の暑さに暖められた水分をふんだんに含んだ夏風が吹き荒れた

 

頭上を歩く女の子の真っ白な太ももが夏光に反射され無性に白く美しく見えた

 

短いスカートに包まれたお尻を押さえながら俺を睨みつける金髪の女の子に俺は言った

 

「貴方の美しさに目を奪われた事は謝罪します

この場で貴方に愛を伝えるのはご迷惑でしょうか?」

 

すると女の子は言った

「なんかウザイ!やりてぇだけだろ!!」

 

その言葉を聞いて俺はげんなりした

 

なんだこの育ちの悪そうな発言は?

こいつは関わったらいけねぇ奴だな

 

俺は無視して彼女を追い越しそそくさと、その場を後にした


 

ヨーロッパかぶれのいかしたオープンカフェで

木製の椅子に深く腰をかけて足を組みながら

味のいけてないブレンドコーヒーを嗜んでいると

何処かで見たことがある足が俺の目の前に飛び込んできた

 

金髪を靡かせて冷たいカフェオレをストローですすってる高慢ちきな顔を見て

俺は何だか記憶に残る顔つきの女だなと感じた

 

この女より可愛い奴は五万と居るし

この女よりスタイルの美しい女を俺は大勢知っている

 

それなのに此のまま永久に別れるのは、どうにも耐え難い

俺は立ち上がり女に声を掛けた

 

「あんたイカシテルぜ!」

 

俺を見てポカンとした後に彼女は少し呆れ驚きながら返事をした

「どうも、ありがとう」

 

彼女は俺から目線を外しカフェオレに意識を集中させたので

俺は、そのまま店を後にした

 

なんてことは無い

 

ちょいと気になる子が居たから声を掛けたが興味を持たれなかっただけだ

 

気に為るアノ子は俺と赤い糸で繋がれた人では無かったてだけだ

 

それなのに無性に俺の心は苦しかった

 

少なくても、この瞬間に俺は人生で最愛の女性を失ったのだ

 

人には軽い恋愛に見られるだろう

 

誰でも良いのだろうと思われるかもしれない

 

それでも俺は今まで一番その人を愛し本気に恋して振られたのだ

 

その気持ちだけは疑ってくれるなよ

 

まるで、あの店のブレンドコーヒーの様な

不味い後味が、いつまでも俺の心に後を引いていた

 

●酒豪


バイオリンの音色が夕暮れに染め上げられたオレンジ色の部屋に流れる

 

私は、まだ寝てる脳を揺すりながらバイオリン曲breakが流れてる電話を探した

 

電話に出ると顔見知りの女の声が聞こえた

随分と久しぶりだと言うのに妙に馴れ馴れしい話し方をする

 

かるく近状報告と世間話を終えた後で

私の精神状態を探っている彼女に本題を尋ねた

 

なんでも有名な音楽業界の人間達で飲んでるから来ないかと言う誘いの電話の様だ

 

なぜ何処にでも居るパッとしない田舎娘が業界人と精通してのるのか不思議に思いながらも

久しぶりに電話して来たと思ったら私を酒の肴にしようという図々しさが彼女の魅力なのかもしれないと思った

 

私としても暇を持て余していたし創作のネタに為るかもしれないと思い二つ返事で快良く承認した

 

飲みの場に居る人達の年齢層や身なりなどを軽く聞き

大よそ其の場に溶け込みながらも個性を主張し

その集団の中で、ほんの僅かに目立つ衣服を頭の中で模索しながら伝えた

 

「もし絡まれたら守ってくれよな!」


 

暗めのブラックジーンズにヨレヨレの黒いジャケットを羽織りキラリと光る真っ白なシャネルのピアスを付けて

指定された飲み屋に付いた私は、カマシが大事だと考え

中に入るや否や、やや大きめの声で「ちわー」と一喝し彼女を探した

 

店に居た者達が一斉に私を見る中に彼女が居ない事を知ると背中に冷や汗をかいた

 

トイレにでも行っているのだろうか?

しかし、なんと間の悪い・・・

 

どうにか彼女が戻るまで視線を釘付けにするしかないと腹を括った私は

「みんなー!飲んでるかー? 酒は旨いかー!?」と叫びながら

若いアルバイトの店員に「親父!ハイボールをくれ!」と叫び知らない人達が取り囲む円卓に強引に混じり込んだ

 

席の人達に「僕はミュージシャンで歌を唄ったりしてるんですよー!」と自己紹介をしながら

周囲の人達が冷静に為らない様に次から次に言葉が切れない様に喋り捲った

 

「実はこないだ女性に告白したらストーカー呼ばわりされて!」と何処かで聞いた話や

実体験を盛りに盛って喋りたてた

 

「此処にも女から呼ばれてきたんですが」と喋っていると

ちょうど彼女がやってきたのでオーイと手を上げると

「あんた何遣ってんの?みんな二階で飲んでるよ」と言われ酔いと恥で顔は見る見る赤くなった

 

彼女が周りの人達に、すみませんと頭をさげるなかで私の評判は上場だ

「にぃーちゃん、また飲もうや!」と声を掛けられながら私達は二階に上がった

 

早速、ここの飲み屋の一階で築き上げた伝説を語りながら飲んでいると

飲みの席で一番年配の貫禄ある男から「今日は、とことん飲もう」と言われ肩組みながら飲んだ

 

その人は非常に酒が強い人で有名らしく

付き合った人が何人も酔いつぶされたそうだ

 

「私はあまり酒は飲めませんが、それでも良ければ付き合います」と一緒に飲んでいた

さすが酒豪と名高いだけあり次から次に酒が空く

 

私が一杯飲む間に3杯も4杯も飲み、すっかり酔いがまわった様だ

「君酒つよいねー」と私に語りかけてきたので

「私なんて全然飲んでませんよ!」と事実を言うと何を勘違いしたのか

すこし怒りながら「もっと酒もって来い!」と飲み比べが始まった

 

とは言え、既に私の何倍もの酒を飲んでいるので

2杯と飲まないうちに酔いがまわり気分が悪そうに俯いていた

 

朝まで飲みながら語り合いすっかり打ち解けたのだが

朝まで、私がケロリと平常心で飲んでいた事に彼は

「俺と朝まで飲んで平常心を保つ奴がいたとは・・・」と驚いていた

 

それ以来、私は音楽業界で一番の酒豪と言われ

伝説の酒飲みに勝ったと一躍有名に為った

 


●嫌いな奴の元から黙って去る


ずいぶん昔に、女装好きのゲイに愛の告白をされて

僕は「気持ちは嬉しいけど付き合う事は出来ない」と断わった事がある

 

けれど誠意を持って答えてくれた事が嬉しかったと僕等の関係は深まり

色々と僕に尽くしてくれた

 

そんな彼が何時の頃からか見返りを求める様に為っていき

遂にはお金を要求してきた

 

僕がお金は支払えないとキッパリと断わると「冷淡な人ね」と言われ

「貴方は利害関係でしか人を見ていない」だとか散々に貶された

 

その時に僕が感じたのは

この人は自分の中の僕を悪人に仕立て上げて僕を諦め様としてるんだなって思ったんだ

 

愛しさ余って憎さ百倍

 

僕を捨てる為に僕の悪い部分を必死に探してるんだと感じた

 

もしも僕が相手の好意に付け込んで利用して捨てた悪い人なら

見返り目的で僕に尽くしてた相手も利害関係で僕に近づいた利己主義者の悪い人だろ?

 

だから僕は黙って悪人のまま彼の元を去った

それが僕が彼に出来る唯一のお礼だったんだ

 

 

●運命という諦め方


私の父親は大学教授で植物の原種を集める仕事をしており一年の半分以上を海外で過ごしていた

 

海外でマラリアにかかり

感染を拡大しない為に隔離された病棟で高熱に苦しみながら闘病生活をおくっていた

 

治療法がなく周囲の人間には、なんのなすすべも無く看取るしか出来ない状況だった

 

ゆっくりと死んでいく人を見送る日々の中で

諦めたくても諦められない気持ちと

何をやっても無理だという状況がジワジワと脳を侵す

 

思考を停止させないと窒息の苦しみで狂い死にしそうな感情の液体に飲み込まれ

私は俳人とかした


 

深い深い悲観の海の奥底で空を見上げながら

どうにか此処から脱出できないものかと考えた

 

少しでも気をそらせば窒息の苦しみが押し寄せる

 

そんな限られた時間の中で私は運命という言葉を受け入れた

 

愛しき者を失うのは運命で私には何も出来ない

この運命を受け入れ自分に出来る事をしていこうと心に決めた

 

私は高熱に苦しむ父を海底に置き去り一人空を目指した

 

海面に出た私は大きく息を吸い無我夢中で泳ぎ浜辺にたどり着いた

 

 

今でも、よぎる事は有る

別の方法が有ったんじゃないのだろうか?

 

今とは違う未来も存在していたのではないだろうか・・・

 

でも、そんな事は今と為っては、どれだけ考えても無駄な事だし

死んだ人間は蘇らない

 

父は死んだ

 

その事実を受け入れ

自分が置かれている状況は運命、定めだと納得して未来に生きていくしかない

 

 

数日後に父は他界した。

 

●献血


「あ~うるせぇ」

ぶっ壊れたマーシャルのアンプがズビズビと豚みてぇな泣き声を発してる

 

 

ベットの下には3&7の空き瓶が転がっていて


迂闊に寝床を離れられない

 

 

しょうがねぇからと寝て過ごして

 

ここんところ何もしない毎日を送っていた

 

高等な音と鳴らせとウルセェ豚野朗に蹴りをお見舞いして黙らせた


 

次に電源を入れたら余計にズビズビと鳴き出したので


もっと歪んだ声で泣き喚けよ!と捏ね繰りまわすと

ご機嫌をそこねた様で黙りこくりやがった

 

町に出ると相変わらず何処の誰とも判らない奴等が疲れきった顔して歩き回り


立ち止まって叫んでる奴等は、まるで生まれたばかりの赤ん坊に聞かせるような

おべんちゃらで出来た建前を主張する宗教家くらいしか居やしねぇ

 

「血が不足しています!献血にご協力ください!」と


慈善を口にして集め回った血を高値で売りつける吸血鬼どもに胸糞悪くなったので

「誰がテメェの食い扶持の為に血をくれてやるもんか!」と罵声を浴びせると

まるで俺が非道徳な頭の可笑しい人みたいにジロジロと周囲の人間に見られちまう

 

人の善意に訴えかけてタダで血を集め


集めた血を売って稼いでる悪党共に悪人扱いされるのは、まったくもって胸糞わりぃぜ

 

それなのに世間様じゃ忌々しい吸血鬼の方が


誰を騙してる訳でもない飲んだ暮れの俺より立派な社会人として扱ってやがるから

まったくコノ町の奴等は、どいつもこいつも頭が可笑しいんだろうな

 

そんな頭の可笑しい連中だから


気持ちのわりぃ笑顔を浮かべて喜んで血を提供するんだろう

 

 

 

突然、車のクラクションが鳴り響き

 


気づいた時には空を舞っていた

 

気づくと病院のベッドの上で


医者が優しく俺に笑いかけた

「気分はどうですか?」

 

どうやら俺は車にひかれたらしい


 

俺は医者に聞いた


「まさか俺の体に他人の血液を入れちゃいないだろうな?」

 

医者は首を傾げながら


「出血が多かったので輸血しました」と俺に告げた

 

俺は、心の底から自分が気持ち悪くなり叫んだ


「血だ!いますぐ俺の血を抜けクソが!!」

 

医者は困惑しながら言った


「もう君の血と混ざって体の中を流れてるから分ける事は出来ませんよ」

 

俺には、諦める事しか出来ず


ただ、項垂れてるだけだった

 

 

病室から見える空の色は俺の体に流れる血液とは正反対に真っ青だ

 

 

俺の体内に入れられた血液の持ち主も


まさか、ここまで自分の血液が嫌がれるとは思いもしてなかった事だろう

 

いったい、この血の持ち主はどんな気持ちで血を寄付したのだろうか?


 

善意の気持ちで寄付したのか


ただの興味本位で、たった一度の献血の血が偶然、俺に入れられたのかは判らない

 

 

俺が嫌ってる奴等が集めた血を自分の体内に入れられて

 

俺は、これからどうやって生きればいいのだろうか?

 

久しぶりに会った両親は笑顔で「助かってよかったね」と何度も泣きながら俺の頭を撫でた


 

それを見て俺は助かって良かったのだと感じた


 

 

俺が生きる為に努力してくれた全ての人に感謝している

 

 

血を提供し集めた人達


そして事故を通報し現場から病院まで俺を運んでくれた人達

 

もちろん医者や看護婦にも感謝してる


 

それでも、俺の胸には胸糞悪さが残っていた


 

心から感謝してるけど胸糞わりぃんだ


 

 

それは、きっと俺の事を否定した奴等のせいだ

 

 

「この社会の屑が!!」


「ごく潰しの酒飲みが」

 

俺の事を否定した奴等に痛みつけられた俺の心が感じていた怒りが


俺が否定していた連中に、そのまま向かい送られていると感じた

 

俺が感じている怒りや、胸に痞える胸糞悪さの行き場所は本当に正しいのだろうか?


 

そいつを知る為にも病院から出たら


とりあえず俺を否定し俺に悪口言いやがる奴等には報復してみようと思うんだ

 

もしもそれで、俺の気分が優れるなら


きっと怒りを張らず相手は奴等で正しいんだろう

 

もしそれでも俺の気分が優れねぇんなら


どうやったら晴れるのかユックリと探していくしかねぇよな!

 


●落書き男と売れないミュージシャン


tagging = 自分の存在を誇示する落書きの事を指す


 

大都会のメインストリートから少し脇に入ると

至る所にスプレーで書かれた落書きが目立つ

 

短いアルファベットの羅列は落書き主の名前か

本人が所属してるギャングのチーム名だ

 

まるで犬のマーキングの様に彼らはアルファベットを書く

 

そんなクダラネェ落書きがビッシリト書かれ

汚れきった灰色のコンクリート壁を背に俺はギターを弾きながら歌を詠っていた

 

誰も通りそうにないションベン臭い脇道で歌う事を選んだのは

この道に咲く雑草の小さな花の上に死にかけた黄色い蝶ちょが居たからさ

 

雨上がりの冷たい秋風に凍えてるコイツに歌ってやりてぇて思ったんだ


 

そんな俺と、あの子のLOVEな空間に招かれざる客がやってきた

 

サイズが合ってない灰色の大きなパーカーには蛍光色で落書きみたいな文字が書かれている

買ったばかりのようにツバの折ってない真っ赤なキャップ帽を深くかぶり金色のロンゲをなびかせながら

ソイツは俺と、あの子の前を横切った

 

そして通り抜けてすぐ横に立ち止まると

スプレー缶で落書きを始めた

 

そのインクが風に乗って俺の方にやって来た

 

俺は言った

「こんな所に落書きしても誰も見ねぇぜ!書くんなら他所で書きな!」

 

奴が吹きかけてるスプレーから漂うシンナー臭が

俺の愛しの可愛い子ちゃんを傷付けるからだ

 

ギャングは俺に言った

「あんたこそ、そんな所で誰も聞いてないのに歌を歌って何がしたいんだ?」

 

俺は、その馬鹿に言った

「聞いてる奴は居るんだよ、お前が気づいてないだけでな」

 

そして続けた

「俺の歌の方がテメェの意味不明な落書きより遥かに多くの人の役に立つだろうが!」

 

するとギャングは鼻で笑って、これみよがしに壁に落書きを始めた

俺には、ただのグチャグチャな線に見えたが

もしかしたら意味が有るのかも知れない

 

しかし、そんな事はどうでも良かった

 

俺は言った

「テメェの落書きは此処に書く必要ないだろ?他所で書きな!」

 

すると奴は嘲笑いながら俺を横目でチラ見して言った

「オメェこそ、こんな人気の無い所で歌ってないで別のところで歌えよ」

 

俺は強い口調で言った

「俺はコノ場所で歌う事に命を賭けてるんだよ!!」

 

俺は血管を浮き上がらせ

長年に渡り訓練してきた複式呼吸で天にも届く様な声で叫んだ

 

「俺の命がけの歌を妨害するてんならテメェも命賭けて落書き続けろよ!子等!!」

 

これで引かないなら俺はギターで奴の脳天を振るわせると決めていた

 

コッチン、コッチンとメトロノームみたいに何度もな

 

その意志の強さが伝わったのだろうか?

奴は「チッ」と舌打ちをして片手をブラブラと上げて、やれやれと言った様子で別の場所に向かった


 

俺は歌を詠った

ギターを弾きながら歌を詠った

 

この場所でしか詠えない歌を詠った

 

まもなくして夏が終わり、アノ子は死んだ

 

●新曲


今日は久し振りの彼女とのデートだ

最近はライヴにレコーディングとスケジュールが詰まっていて
彼女と顔を会わせるのは一ヶ月ぶりだ

俺のデートは基本的に男女数名の集団で行う

遊園地などを二人きりで行って
デートだ何だと噂話のネタにされて嫌な思いをする事も無いし
昔から先輩のデートに付き合って
何人かで遊園地に行くことが有ったので此れが俺にとっては自然な行動だ

勿論、誰と誰が出来ているとか
事細かに把握してる訳じゃないが何となく判る

俺達は俺達でフリーの付き人同士で宜しくやるし
テレビに出てる人の立ち振舞いを間近で観察出来て
そういう人の一員に馴れた様な感じがして嬉しく思えるからだ


スタジオで練習してる時から夜のデートにワクワクして
スタジオでの声が少し優しい気がした


メンバー皆でスタジオに入る機会は
一人でスタジオに入る日数に比べれば遥かに少ないが
それぞれが個人練習して、このスタジオ練習に望んでいる事は音を聞けば直ぐに判る

前回入った時に下ろしたばかりの新品だったpickがボロボロに為ってるのを見ると
昨日の個人練習を、もっとしとくべきだったんじゃないかと不安に感じる

7時までの予定だったスタジオ練習は伸びて
ミーティングが終わった頃には
夜の11時を回っていた

途中でデートに遅れるという断りのメールは入れたが
それ以上の事はしていない

行けなくなっただなんて無粋なメールを入れて
楽しい遊園地を台無しにしたくないし
俺達みたいな人生の価値観の大部分が音楽で出来てる連中には良く有ることだからだ

それに練習中は音楽の事以外は考えられない

ただ必死こいて歌うのがメンバーに対する礼儀てもんだからだ


日付が変わる頃に彼女に電話すると
随分と怒られ泣かれた

あまりに文句ばかり言うので
「そんなに俺の事が嫌ならもう連絡しないよ」と言うと
電話を切る間際に「死んでほしい」と言われた


楽器を担いで一人で家まで歩く
横を通る道路から車のエンジン音が鳴り響き
真っ暗な歩道を歩く俺の横顔をテールランプが
時おり赤浮き上がらせる

こういう時ほど俺は詩が浮かぶ

 

●最強の自分


恋人に振られたんです
「もう 貴方が何考えてるか解らない
逢うと殴られる気がするからもう逢いたくない」

僕は泣きながらガッツポーズを取ったんです

ようやく僕というキャラクターが確立されたんだって思いましたよ

自分のごく親しい人ですら
僕が演じてるのか本当に可笑しいのか判らなくなったんですからね

もう自分でも判らないんですよ
いまの自分が演じてる僕なのか素の僕なのか。

完全に飲み込まれて1つに為ったんでしょうね

今の僕は強いですよ

僕自身が作り出した色んな自分を全て吸収して融合して表面化した一番強い表層意識の僕なんですから。

本当の僕かどうかは別にして
一番強い僕である事は間違いないです。

 

●愛の伝道師


血の気の多い俺だが朝起きると
全身の血液が下半身に集まっていて
頭が全然回らない

寝る前に飲んだブランデー入りの紅茶の残りでウガイする

古着屋で5ドルで買ったシャツに袖を通し
ハイオクを飲む

後は宛も決めずプラプラと街を歩く

俺は突然走り出した

気分はフォレストガンプさ

疲れたからまた歩いた

目の前にあった宗教の建物に入った
受付の女性が何の様かと訊ねたから
「君に会いに来た」と言ったら困った顔をされた

「愛について教えて欲しいから電話番号教えてくれ」と言ったら笑顔で断られたので
此処に神様はいねぇやと俺はその場を後にした

誰も俺に愛を教えてくれなかった

けれど俺が求めてる愛を誰かに教える事は出来ると気付いた。

そして俺は教祖になった

愛の伝道師さ

 

●パン屋のおねぇさん


朝のランニングがてら駅前のパン屋さんに行くのが最近の日課だ

そのパン屋のオネェさんに僕は恋している

寒い朝のランニングも あの人に逢うためなら頑張れる

 

彼女がパン屋さんに居る曜日は通いつめてすっかり把握している

今日は彼女が休みの日なので僕も休養日だ

 

いまから明日のランニングが楽しみでしょうがない

生憎な雨の朝、僕は防水性のマウンテンパーカーを着て
いつもの様にパンを買いに行った

お釣りを受け取るときに
彼女の左手の薬指がキラリと光った

それが指輪だと知ったときの僕の気持ちは
自分でもビックリするくらい冷静だった

あんなに可愛い人なんだ
恋人が居ても何にも不思議じゃない

店を出てから僕は歩きながらずっと考えていた

僕は彼女がずっとはめていた指輪に
今日、初めて気付いたんだろうか?

それとも僕がモタモタしているうちに誰かに告白され
彼女を持っていかれたのだろうか?

もともと付き合って居る人が居て
昨日の休みに貰ったんだろうか?

 

それとも、もともと指輪は貰っていて

たまたま今日つけてきたのだろうか?

 

そんな、どうでも良い事ばかりが頭の中をグルグルと回っていた

 

家に帰った僕は、いつもの様にコーヒーを淹れてパンを食べた

 

いつも美味しいパンが妙にショッパクて

なんだか酸っぱさを感じて僕は思わず咳き込んでしまった

 

 

あんなに大好きだったパンが今はスッカリ嫌いになってしまい

今では全く買いに行ってない

 

それから長い年月が経った或る日

無性にあの店のパンが食べたく為って僕は買いに行った

 

僕の知ってるオネェさんは居なくなっていた

久しぶりに食べるパンは懐かしい味がした

 

●かなぶん


満員電車の中に一匹カナブンがまぎれこんでた

地面を這いながら隠れる場所を探してるアイツに気付いて居るのは俺だけだ

誰かの靴に寄り添い隠れても
直ぐに靴は動きだす

いつ踏み殺されるか分からない
アイツを助けてやれるのは此処には俺しかいない

そう思うと俺の胸の奥に
熱い何かが込み上げてきた

俺は奴を抱き締め危険から守ろうと意を決した時にアイツは消えた

踏みつけられたアイツは靴にくっついて
忽然と姿を消したんだ

いまとなっては生きているのか
死んでいるのかすら判らない

ただ、俺の前から消えたアイツが
美しい空を飛んでいればいいなと俺は思っている

俺は願っている。

 

 

●バーで飲めない酒

 

ジャズが流れてる こじゃれたバーでJIM BEAMを飲んでると


隣に座った女の人が「何を飲んでるんですか?」と話しかけてきた

 


バーで酒を飲んでると刺激の無い生活に飽きて


火遊びをしてみたいて女が話し掛けてくる

 

差し詰めバーは出会いの宝庫だ

心にちょいと傷を負った寂しい一人者が寂しさに耐えかねて遣って来る場所だからだ

 

俺は言った

「マスター 彼女にコイツを。」

そういって俺は飲んでいたウイスキーグラスを少し上に持ち上げた

 

「ありがとう」と注がれたばかりのウイスキーを小鳥が、ついばむ様に少しずつ飲む彼女に言った

 

「この酒はね ビーム家て一族が代々造り続けてる酒でね。


中でも初代のジム爺ちゃんが作った この酒が僕は大好きでね」

 


彼女は僕の言葉を何処か上の空で聞きながら言った

「なんだか、そんな話ばかり聞いてたら御爺ちゃんの味しかしなくなってきたわ」

 

俺は彼女のグラスを強引に取って一口飲んだ

「なるほど 確かに爺さんの味がするね」と言った

 


少し驚いた顔で俺の顔を見詰めている彼女に言った

「今飲んだら少し違う味がするかもしれないよ?」

 

そう言ってグラスを返すと

彼女は少し間を置いてから振り切った様に俺が一口飲んだグラスに口を付けた

 


そして驚いた様に言った

「不思議だわ なんだか、さっきと味が違う」

 

俺は言った

「ほんとうかい?味を聞かせておくれよ」

 

そう言って彼女にキスをした

そして彼女の口元で言った

「コイツは極上だ なんせ舌触りが違う」

 

そして俺達は二人っきりじゃなきゃ飲めない酒を飲みにバーを出た。

 

 

●ゆとり教育

 

私が学生の頃に大人の都合で突然、土曜日が休みに為った

俗に言う、ゆとり教育の始まりだ


金曜日に先生から「明日は休みだから学校来るなよ」と笑いながら言われ

クラスメート達も笑いながら子供らしく「はーい」と答えていた


しかし俺はムカついていた

今まで俺は毎週、土曜日も学校に行かされていたのに

之から生まれる奴は全員、土曜日に学校を行かなくてすむからだ


土曜日は学校に行くものと思い込んでた常識が

政治一つで簡単に壊れたのだ


俺は、この時に常識とは誰かが作ったもので

誰かの都合しだいで簡単に壊される物だと学んだ


しかし、それを理解してる人は少ない


常識という固定概念に自律神経を支配されてる人達は

人によって作られた常識を絶対的に正しく普遍な世界だと思い込んで生きている


私は彼らとは違う物を見て育ち違う世界で生きている

 

 

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